「オーオー、オオオ、オッオッオッ、オオオ、オーオオー、オオーオオー」
サッカーの試合というと、太鼓の音、観衆のコール、大歓声の中での試合をイメージしませんか?
目隠ししてするサッカー、ブラインドサッカー。
ブラインドサッカーは、日本代表戦なら千人単位の観客を集めます。
ですがスタンドは試合中、静まりかえっている。
「試合がつまらない」「楽しみ方がわからない」
観客が戸惑っているわけではありません。
明確な意思のもと、観客は静かに熱い視線をフィールドに向けています。
Contents
ブラインドサッカーの魅力!
今回は、ブラインドサッカー観戦の楽しみをお伝えします!
※ブラインドサッカーがどんなスポーツかは、前回記事を参照。
スタンドの静寂。チャンスでも盛り上がらない観客たち⑥
ブラインドサッカーが多くのメディアに露出するようになって、日本代表戦は多くの人が観戦しにくるようになりました。
国内大会でも、日本選手権はチームスタッフを除いても100人を超える人が観戦しています。
おおぜいが観戦する試合。それでも観衆は静かに観戦しています。
それはなぜか?
ブラインドサッカーでは、選手たちは、ボールの音や味方の声を頼りにプレーする。
観客は選手たちのプレーをさまたげないよう、静かに観戦するのがマナー。
でも黙って観戦していると、フツフツと自分のなかに熱がたまってきます。
試合中、それを爆発させることが許される瞬間があります。
それはゴールの瞬間。
静かに観戦するからこそ、待ち望んだゴールの歓喜を、何倍にもしてくれる。
サッカーの醍醐味を、より大きく味わえるギミックにもなっています。
止まったボールをめぐる攻防。どっちに転ぶかわからない静かな戦いにハラハラドキドキ⑦
ブラインドサッカーでは、転がると鳴る音を頼りに、選手たちはボールの位置を把握します。
逆にいうと、ボールが止まってしまえば、選手たちはボールの位置がわからなくなる。
ボールが止まったあと、ブラインドサッカーならではの攻防戦が繰り広げられます。
そしてこの攻防を制した方が、一気にゴールへと近づく。
ボールが止まっている状態は、選手からすれば、まさに暗闇の中で探し物をするようなもの。
ガイドや味方キーパーの指示を頼りにボールを探します。
双方ボールを見つけるのに注力するため、守備陣形はやや無防備。
先にボールを見つけ出した選手は一気にドリブルで相手陣地にかけ上がれるのです。
この突然ギアが入ったときの興奮、直前までの息をのむ静かな攻防。
水を得た魚のように動き出すプレーはブラインドサッカーの醍醐味。
どちらもボールにたどり着けず、あまりにも試合が停滞したときは、審判がボールを足裏で転がし音をならします。
音が鳴った瞬間、両軍とも一心不乱にボールめがけ動きだす。
相手選手と接触が起こることを気にもとめず、マイボールをかけての争奪戦も見ものです。
壁はトモダチ。トラップと挟みドリブル⑧
ブラインドサッカーで、サッカーと比べ最も難しいプレーはトラップです。
見えていない状態で、動いているボールを止めるのは、どれだけ上手な選手でも、なかなかに難しい。
そのためパスやゴールキーパースローを確実にとるために、サイドフェンスを使います。
基本的にパスは、前方対角のサイドフェンスめがけて蹴る。パスの受けては、壁のクッションを利用して確実にトラップ。
ゴールキーパースローの場合は、サイドフェンス沿いをはわすように投げることが多い。壁沿いに選手が立っていればトラップできる段取り。
ドリブルにもサッカーと比べて違いがあります。
ブラインドサッカーでは、挟みドリブルと呼ばれる、両足の間にボールを置き、左右の足で交互にタッチする。
ボールタッチのピッチをあげることで、ドリブルスピードを上げます。
これも音だけでボールの正確な位置を把握するのは難しいため。選手たちは足の感覚や、反復練習で得た経験値で、ボールコントロールを保とうとします。
トラップやドリブルの難しさを知った上で試合を観ると、よりブラインドサッカーを楽しめます。
挟みドリブルで相手をかわすのは無理だろうと思っていると、足裏も使った小刻みなボールタッチでディフェンスを抜き去る選手がいたり。
まるで見えているかの様に、挟みドリブルは使わず”普通”のドリブルを駆使したり、味方のパスをダイレクトでシュートする選手がいたり。
スーパープレーのすごさが、より凄まじいものと感じて頂けるはずです。
言葉には意味がある。先を読むコーチングの妙技⑨
ガイドや監督、ゴールキーパーが、目で見た情報を選手に伝えたり、指示をします。
はたから見ていると、「指示をもとに選手は動いているのでは?」と思うかも知れませんが実際はそうではありません。
あくまで選手は、自分で描いたイメージをもとにプレーをします。
相手選手の声や息づかい、その場の雰囲気で、双方の位置関係を想像し動いている。
逆に言うと、ガイドの指示では情報として遅いことが多いです。
相手が右にドリブルしたので「右に行け」では、指示が届いたときには左に切り返されているかもしれない。
だからガイド、監督、キーパーは、ひとつ先を読んで情報を選手に伝えます。
マイボールでも、味方が相手と競っているときは「競っている」「とられるかも」と味方ディフェンスに伝える。
味方がシュートを打とうとして、左右に蛇行しながらドリブル突進しているとき。ドリブルの方向が右に進み、次は左に切り返すことがわかっているなら、行った先に守備がいるのかを伝える。
そして何より、選手が立体的に状況を掴めるように、短いながらも必要な情報が詰まった言葉を使います。
上手なガイドの声を聴いていると、観衆が目をつむったとしても、試合の流れが手に取るように分かります。
音の情報戦。相手の裏をかくトリックプレー⑩
ブラインドサッカーにもフェイントは存在します。
ただサッカーのフェイントでは通用しない。
例えばサッカーにはシザースという、ボールを跨ぐように左右交互に足をだすフェイントがあります。
右に行くのか左に行くのか、ディフェンスを惑わすドリブルの技術ですが、ブラインドサッカーでは意味をなしません。
相手選手は見えていないので、視覚を惑わす技術は効果がない。
その代わりドリブラーは、ボールの音をコントロールします。
意図的に両足の間でボールを止める。
沈黙のなか相手に迷いが生まれたと感じた瞬間、一気にスピードを上げディフェンスの脇を抜けていく。
その他、わざと体から遠いところでボールの音を鳴らし、相手が出てきたとき、足裏を使い逆側にボールを持ってドリブルで抜いていくものなどがあります。
ドリブルする選手がどうボールを扱うのか、意識して見ていると面白いかもしれません。
まとめ
ブラインドサッカーの試合やプレーがどんなものか、少しでもイメージして頂けたら嬉しいです!
次回はブラインドサッカーの苦難の歴史をお伝えします。
彼らのプレーがどうやって生み出されたのか、そして今の競技規模にたどり着くまでどんな歴史をたどったのか。
次回もお楽しみに!
連載内容
- ブラインドサッカーとは?基本の5ポイント
- 観戦中はお静かに。息つまる攻防から目が離せない編 ←今ここ!
- ブラインドサッカー苦難の歴史編
- 魅力的なブラインドサッカー界隈の人びと編
- 第5回 近づきつつある世界との距離編